お客様と従業員への感謝を胸に、商品開発に取り組む
サザエで働きはじめたのは高校2年生の頃で、南小樽生協店のアルバイトに応募したことがきっかけでした。生協で働いていた叔母からの勧めがあり、黙々とお皿を洗ったり、ガラスを拭いたりしていればいいだろうと、安易な気持ちで面接を受けに行ったのですが、働きはじめてから接客もやらなくてはならないことを知り、最初は苦手意識がありました。当時は陸上とスキーにのめり込む日々で、人と接するのがあまり得意ではなく、接客態度がわるいとお客様から叱られたこともありましたね。
働きはじめてから3ヶ月ほどが経ち、だんだん仕事を覚えてきた頃にお客様の呼び込みをしていたんですが、スポーツマンだったので声が大きくて、店舗の端まで私の声が届いていたみたいなんですね。その時に、「あなたの声がしたから買いに来たわ」とおっしゃってくださったお客様がいて、接客って楽しいんだなと、はじめて思うことができました。そんなふうに、これまで私の接客はお客様に育ててもらった感覚があります。
おはぎを「1、2、3」で仕上げる技術
アルバイトの時代から、おはぎとおむすびをはじめ、おやき、団子などの調理を経験しました。おはぎづくりについて先輩から教わったのは、「1、2、3でつくりなさい」ということでした。綺麗な艶感のあるおはぎにするには、なるべくあんこに触れる時間を少なく仕上げなきゃいけないんです。「1、2、3、1、2、3」と、しばらくは念仏のように唱える日々が続きましたね。それに、強く握りすぎるともち米がかたくなってしまうので、ソフトに仕上げるための握り加減も意識しました。
おはぎは目安として30分で200個つくれるようにならなくてはいけないのですが、最初は1時間ぐらいかかってしまっていました。早くつくれるようになったのは、お彼岸の季節に応援で東京に行った経験があったからです。私は勝気な性格なので、同僚たちがものすごい早さでおはぎを握っているのを見て、絶対にこの人たちを抜けるようになろうと、手もとを観察しながら技を盗んでいきました。北海道に戻る頃には30分以内に200個つくれるようになり、「本当にいつもの真澄ちゃんなの?」と先輩から驚かれました。
一生懸命でなければ人の心は動かせない
高校卒業後に正社員としてサザエに入社し、半年後に副店長を、翌年には店長を務めることになりました。とはいえ当時はまだまだ未熟者で、十分な務めを果たせていなかったと思います。
アルバイトの時に可愛がってくれていた人たちの上に立つことになり、あたかも自分が偉い人間になれたんだと勘違いしてしまっていたと思うんです。肩書きだけでは人はついてこないんだなと、身をもって知るような経験をたくさんしました。その後、いくつかの店舗を異動しながら、心を動かさなければ人はついてこないということを知りました。自分が一生懸命やらなければ、人の心を動かすことができないですし、一生懸命やっていれば、誰かが助けてくれます。人のありがたみを知ることができたのは、あの頃の経験があったからだと思います。
その後商品部に異動することになり、11年商品開発を経験してから、もう一度店舗に戻り店長を担当することになりました。商品開発を担当したことで、より商品の魅力をお客様に伝えられるようになったと思います。
店長として従業員に伝えていたのは、まずは明るく元気な接客をすること、そしてお客様を最後まで見送り、また来ていただきたいという気持ちで接客しなさいということでした。ちゃんと一礼ができていない従業員がいたら厳しく指摘することもありましたが、同時にいい接客をしているのを見かけたら「よかったよ」と褒めてあげて、いいところもわるいところも具体的に伝えるようにしていました。
2023年の9月からは販売部に移り、スーパーバイザーとして12店舗ほどを担当することになりました。スーパーバイザーの仕事はなによりコミュニケーションが大事で、頭ごなしに売上を伸ばしてくださいと言うのではなく、まずは従業員と仲良くなり、お客様に気持ちよく買ってもらえる元気な接客を心がけてもらっています。私が教える立場ではあるんですが、逆に教えられることが多く、みんなに励まされています。自分が着任してからお店の雰囲気が変わっていたり、みるみる成長していく従業員の姿が見られたりすることがあるとうれしいですね。もともと幼稚園の先生になりたかったので、人になにかを教えるのは大好きですし、楽しんで仕事をしています。
1/1,000の可能性にかける商品開発
29歳の時に商品部に異動し、商品開発の仕事を担当するようになりました。企画を考えるのは本当に難しかったですね。いまはインターネットがあるので、なにが流行っているのかがすぐにわかりますが、当時は雑誌やニュースを通して、何がこれからブームになるんだろうと考えていました。食材メーカーさんから情報をもらい、開発の切り口にすることもありましたね。
当初は自分が考えたものはすべて売れるに決まっていると思っていたんですが(笑)、ことごとく失敗してしまい、そんなに甘くはないんだなと挫折を味わいました。それからは、1,000品中1品でも引っかかればいいという心持ちで企画を考えていきました。
現在も販売している「鶏天むす」のおむすびは私が開発した商品です。当時個人的にかしわ天が大好きで、おむすびの具にしてもいいんじゃないかなと思い、お取引のあるお肉屋さんに鶏肉のサンプルを持ってきてもらい、大体1年ぐらいをかけて味を模索していきました。かしわ天って、タレがついてなくてもおいしいですよね。北海道の人は甘塩っぱいものが好きで、あんまり薄味なものは売れないので、ものたりなさがないように、濃い下味を意識して開発していきました。