2024年10月末、サザエは創業以来初のリブランディングを発表しました。経営戦略策定から商品企画、ブランドコンセプト、ロゴデザイン、店舗デザイン、Webサイトなどの開発をトータルで手がけ、約2年間に渡るプロジェクトを伴走いただいたのは、エイトブランディングデザイン代表の西澤明洋さんです。リブランディングのプロセスを振り返りながら、これからのサザエのブランドづくりにかける想いを、代表取締役社長の石水創と語り合いました。
おはぎとおむすびを軸とするブランドとしての決断
石水:西澤さんとはじめてお話しさせていただいたのは、2020年2月に福岡で開催された経営者向けのカンファレンスでしたね。以前からエイトブランディングデザインが手がけたサツドラのリブランディングが北海道中で話題になっていて、西澤さんのお仕事がとても気になっていました。
その場はご挨拶だけで終わったんですが、西澤さんが本の中で書かれていた「ブランディングは伝言ゲームである」という言葉を読んで、本当にその通りだなと思ったんです。当時、サザエには誰かに伝えたくなるようなブランドコンセプトと戦略がないことを痛感していたので、ぜひ西澤さんにリブランディングをお願いしたいと、後日ご連絡させていただきました。
西澤:ありがとうございます。これまでさまざまな食品会社さんのブランディングデザインをさせていただきましたが、おはぎとおむすびがメインのブランドは初めてだったので、単純におもしろそうだなと思ったのが、当時の第一印象でした。お仕事を引き受ける前に、一度北海道に足を運んで実際にサザエの商品を買ってみたんですが、どれもおいしくて驚きましたね。
同時に、デザイナーの目線からするとスーパーで売っている他の商品との違いを表現できていないのがもったいないなと感じたんです。サザエのおいしい商品に相応しいビジュアルをデザインすることができれば、ブランデイングとして大きな可能性があるのではないかと感じました。
石水:サザエの従業員はみんな、自分たちがつくる商品を本気でおいしいと思っているんですね。こんなにおいしいなら、もっと売れてもいいんじゃないかというという声を度々耳にしていたので、商品の伝え方ひとつで劇的に変わる可能性を秘めているんじゃないかと感じていました。
西澤:実際にお手伝いさせていただくにあたり、デザインだけではなく、戦略とコンセプトの部分もしっかりつくっていきましょうとお話しさせていただきました。当時のサザエの商品全体をみたときに、ラインアップの幅が広がりすぎてしまっている印象を受けたので、そのことを率直に申し上げると、石水さんも同じように感じられていると。なので、まずはおはぎとおむすびに絞ったラインアップにしていきましょうという話から進めていきました。
ともすると商品数を減らすことは売上の低下に繋がりかねないですし、経営者としては勇気のいる決断だったと思うのですが、石水さんははっきりと意思決定をされましたね。結果的に以前の2/3ぐらいの商品ラインアップになりましたが、これはかなり攻めた絞り込みだと思います。
石水:私自身、当時は社長に就任してからまだ日が浅かったので、フラットに従業員のみんなの意見を聞くことができたのは大きかったと思いますね。広がり過ぎてしまっていた商品ラインアップについては、どうにかしたいと感じている従業員は多かったので、サザエにとって守るべき存在であるおはぎとおむすびの軸だけはぶらさないように、絞り込むことを決めました。
サザエのブランドを変えていくための「約束と生き様」
西澤:「手のひらに、想いをのせて。」というブランドコンセプトも、おはぎとおむすびに絞り込むことが決まってからかなり早い段階で固まりましたね。サザエは自社店舗で製造しているという大きな強みがあるので、自然と手づくりのおいしさを追求していくコンセプトが生まれていきました。
石水:社内のさまざまな意見を集約しながら、コンセプトとしてブラッシュアップしていった感じでしたね。サザエの想いが端的に表現されたコンセプトに仕上がったと思っています。
ブランドをつくり上げていく上で嘘はつきたくないですし、いつか振り返ったときに、ブランドの軸がぶれてしまっていないかどうかを確かめられるコンセプトができたことは、今回のリブランディングにおいて大きな意味があったことだと思います。
西澤:コンセプトが決まり、ロゴのデザインを進めていきましたが、最終的にお選びいただいたデザインがかなり攻めたものだったため、「本当にいいんですか?」と僕らが聞いてしまったくらいでした(笑)。保守的なアイデアもたくさんあったなか、このデザインに決めていただいたのは、おはぎとおむすびを軸にブランドを育てていくことに対して腹を括られたからだと感じました。
石水:ロゴデザインの意思決定は、今回のリブランディングプロジェクトのなかでも一番迷いましたね。社内の意見も割れていたんですが、我々は変わらなければいけないんだということをきちんと説明した上で、最終決定をしました。もしこのロゴを選んでいなかったとしたら、今のようなリブランディングにはなっていなかっただろうなと思います。
西澤:ブランドにとってコンセプトとロゴはセットで重要な存在です。僕はブランディングデザインとは「約束と生き様」だと思っていて、コンセプトはブランドとしての約束を示すものであり、ロゴデザインは生き様を示していく上での旗印となる存在だと考えています。
石水さんがこのロゴデザインを選んだことで、ここまで変わっていいんだと、プロジェクト全体の温度感が決まったような気がしました。石水さんが従業員のみなさんを鼓舞するような発言を積極的にされていたのも印象的でしたね。
おむすびや惣菜などを販売しているブランドのロゴの多くは、和風っぽい仕上げのデザインが多いんですが、これから新しいものを生み出していきたいというサザエの姿勢を、今回のロゴデザインで表現できたんじゃないかと思っています。食品ブランドのロゴとしてここまで直線と円だけで構成された幾何学的なデザインはあまりないですし、これだけ要素を削ったミニマルなデザインは時代の流れに左右されないので、今後10年、20年と使っていただけるのではないかと考えています。
サザエの商品のおいしさと品質を伝えるデザイン
西澤:僕としては特にお店の空間デザインに手応えを感じることができました。リニューアルにあたってラインアップが大きく変わり、おはぎとおむすびに焦点を絞ったディスプレイになったことで、お店全体がロゴを体現する空間に仕上がったのではないかと思います。実際に売上につながっていますし、手前味噌ながらいいデザインができたなと感じています。
石水:商品が並ぶ店舗は最もお客様が目にするところだったので、おいしそうに見える照明の色や光の当たり方などは何度も検討しましたね。これまで店舗によってブラックやあずき色など基調となる色がばらばらだったため、今回統一されたことで商品を引き立てる店舗にできたと思っています。
西澤:店舗の壁に飾るアートワークもこちらから提案させてもらいました。個人的には商品を置くだけで成立するような、なるべくシンプルな空間が好みではあるんですが、サザエの店舗の空間を考えたときに、ロゴだけではサザエの商品の品質が伝えきれていないように感じたんですね。
北海道を代表する企業の店舗としての品格を、老舗のブランドとしてではなく、現代的な表現で示すために、北海道のかたちをモチーフに、商品のイラストを散りばめたアートワークを制作しました。ポップやプライスカードなどの視覚情報とあわせて、お店の顔として壁面にアートワークを掲示いただくことで、店舗デザインを統一することができたと思います。
また、より多くの方にサザエのことを知っていただけるように、Webデザインとブランドムービーにも力を入れています。さらにサザエに興味を持っていただくためだけではなく、ゆくゆくはサザエで働きたいと思ってもらえるようなWebサイトにするために、サザエで働いている方々の雰囲気が感じられる構成を意識しました。撮影にあたっては、さまざまな従業員の方々にご参加いただきましたね。こういった撮影の現場では、つい表情が固くなってしまいがちな方が多いのですが、店舗も工場のみなさんも素敵な笑顔でご協力いただきました。
石水:社員のみんなが喜んでポーズを決めてくれましたね(笑)。いつも打ち合わせのたびにWebサイトの進捗状況が楽しみでしょうがなかったです。ブランドムービーの仕上がりは、今回制作いただいたなかでも最も感動しました。
西澤:映像を担当したbird and insectさんと、サウンドデザイナーの日山豪さんにはかなり無理難題を聞いてもらいましたね(笑)。今回はテレビCMにも対応できるようにジングルを制作し、サザエのロゴモーションに合わせたサウンドをデザインしました。
新たな商品を生み出していくブランドとしてのスタート
西澤:リブランディングと合わせて僕らも新商品のアイデア出しや試食会に参加させていただきましたが、原点回帰するような「とみのおはぎ」だけではなく、「スティックおはぎ」のような発明的なアイデアが飛び出してくるのが、サザエのおもしろいところだと思います。僕自身、このブランディングに関わるまではあんこを食べる機会はあまりなかったのですが、いまや大好きになってしまったので、こういった手に取りやすい商品をきっかけに、あんこが好きな人が広がっていくんじゃないかなと。
石水:スティックおはぎの開発では、テストマーケティングを3回も実施しましたね。1回目の実施時には調理時間などの課題がありましたが、3回目には現場のオペレーションにおける不安要素を取り除くことができ、無事に販売開始することができました。
リブランディングのプロセスでは商品の改良にも取り組みましたが、なかでも赤飯の製造工程の見直しは最も力を入れたかったことでした。北海道の赤飯には、甘納豆を使うという他県にはない特徴がありますし、おめでたいときに食べる、暮らしのなかで特別な存在でもあります。この食文化を守っていくことはサザエの使命でもあると思うので、着色料を使っていたこれまでの製造プロセスを見直し、あんこの製造を手がけるグループ会社・十勝製餡の工場から出る小豆の煮汁を活用した製造方法に変更することで、小豆の自然な色味とやさしい味わいの赤飯に改良しました。
今後はISHIYAグループとしての展開も視野に、石屋製菓とのコラボレーションやサザエだからこそできる新商品の開発にも取り組んでいきたいですね。約2年間に渡るリブランディングプロジェクトを通して、西澤さんがおっしゃるように、ブランドとしてのサザエの約束と生き様を決めることができたと思っています。ロゴデザインや店舗デザイン、Webサイトといった見た目の変化も大きいですが、なによりサザエの従業員が自分たちの会社に誇りを持つことができるブランドコンセプトが生まれ、会社として進むべき方向性をしっかり示すことができたのが意義深いと思っています。
西澤:今回のリブランディングプロジェクトはあくまでスタート地点なので、これからきちんとブランドを育てていくことが重要だと考えています。デザイナーとしては、引き続き各店舗のリニューアルと新規オープンの店舗もつくり上げていきたいですし、今後も伴走させていただきたいですね。これから革命的な商品がサザエから生み出されることに期待しています。
石水:そうですね。サザエの伝統を守りつつ、今後は1年に1つは新商品を生み出していけるような、そんなカルチャーをサザエのなかにつくっていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。