元気な笑顔でいることへのプロ意識
高校を卒業する少し前の頃、当時サザエでアルバイトをしていた友だちからの誘いで、ダイエー清田店にて働きはじめました。それまでアルバイトの経験はなかったんですが、サザエで働くことの楽しさを友だちから聞いていたので、私も働いてみたいなと思ったのがきっかけです。
高校を卒業してからも仕事は続けていて、2ヶ月ほどたった頃に店長から声をかけられ、パートとして入社することになりました。当時はまだ右も左もわからないような状態だったのですが、とにかく毎日元気よく声を出していて、そのことが評価してもらえたんだと思います。
当時から接客の仕事が特に好きでした。自分の声で呼び込んだお客様に商品を買っていただき、売上につなげていくことの達成感がありました。元気よく接客をしていたらお客様から声をかけられ、豆大福をたくさん買っていただいたこともありました。
それでも働きはじめの頃は、緊張で笑顔が引きつってしまっていたようで、店長から指摘されることもよくありました。自分では笑っているつもりだったのですが、自然な笑顔ではなかったようですね。忙しくなってくると、どうしても自分の仕事に集中してしまって笑顔がなくなってしまいがちだったので、どんな時でもお客様と笑顔で接するようにと、しばらくは口角がちゃんと上がっているかどうかを手鏡で確認しながら、笑顔の練習をしていました。接客業なので、親しみやすい笑顔でいることにプロ意識を持って仕事に臨んでいました。
100%の品揃えでお客様をお出迎えすること
2年ほどパートを経験してから、「物覚えが早いから、社員もできるんじゃない?」と声をかけてもらいました。社員になればお給料も上がるので、挑戦してみようと思ったんです。サザエは福利厚生がしっかりしていますし、有給消化率も高いので、プライベートと仕事をきちんと切り替えて働くことができるところに魅力を感じました。
その後、従業員が多い規模の大きな店舗に異動になりました。月間の売り上げはそれ以前に在籍していた店舗の20倍くらいだったので、いろんなことを勉強しながら少しずつ仕事を覚えていきました。店舗にいるときに特に心がけていたことは、ロスを出さないようにすること。百貨店内の店舗では、開店までにすべての商品を陳列しておかなくてはならないのですが、つくり過ぎてしまうとロスになってしまうので、その調整には苦労しましたね。お客様がいらっしゃった時に品切れの商品があることは絶対にNGなので、100%の品揃えでお客様をお出迎えすることを徹底していました。
サザエでは大体2、3年の周期で店舗を異動していましたが、異動先の店舗で売上を伸ばすことができたときには達成感があります。予算と目標に対してきちんと達成できた時には、この仕事ならではのやりがいと楽しさを感じることができると思います。
サザエの和菓子づくりに求められる職人技
社員になってから12年ほどが経ったタイミングで、宮の森工場にて和菓子製造の仕事を担当することになりました。それまで担当した店舗できちんと売上をつくり、店舗の仕事や接客にもやりがいを感じていたので、異動が決まった時には悩みましたね。それでも、部署が違うだけでサザエの仕事であることに変わりはないので、やってみようかなと思い異動をすることに決めました。
当時の工場は60代を超えたベテランの方々が第一線で働いているような状態で、店舗とは180度違う環境でした。それまでは店舗に供給されている和菓子がどのようにつくられているかをまったく知らなかったですし、工場で働いた経験もなかったので、ピッキング作業と言われてもそれが一体どんなものなのかすらわからないような状態から仕事がはじまりました。
実際に工場で働きはじめてから、思っていた以上にものづくりの仕事は奥が深いことを知りました。もちろん、店舗でもおはぎはつくっていましたし、美しく仕上げるための握り方を身につけるまでの苦労は経験していました。手握りのおはぎの場合、もち米とあんこを50gずつ手に取り、親指であんこを伸ばしてから「ぱんっ」と叩くように手のひらでもち米と合わせ、「1、2、3」でつくる必要があります。あまりあんこに触れすぎると白くなってしまい、見栄えのいいおはぎにならないので、おいしそうなおはぎに仕上げる技術が必要でした。
店舗でつくるおはぎは数十個程度でしたが、宮の森工場ではオンラインショップで販売している冷凍のおはぎを月間数万個はつくらなくてはならず、別の大変さがありますね。一定の品質の製品を大量につくり続けなくてはならないのが工場の仕事で、製品に問題がないように、いつも細心の注意を払いながら仕事に取り組んでいます。
宮の森工場ではおもに大福と冷凍おはぎを機械で生産していますが、気温や湿度によって生地の硬さが大きく左右されるため、機械だからといって必ずしも一定の品質が保たれるというわけではありません。季節によって機械の設定や回す時間を変更したり、水分の量を調整したりと、常に一定のものをつくり続けていくための技術が必要です。
和菓子づくりでは「昔ながら」という表現がよく使われますが、同じ品質のものをつくり続けるためには、たとえ機械でつくっていたとしても、どこか職人のような熟練された技術が求められます。工場製造というと、すべての工程がライン化されているイメージを持たれると思いますが、サザエの工場では人の手でつくっている部分が大きいです。
生地を仕込んでいる段階でやわらかさを確認したり、米がきちんと蒸けているか手で米をつぶして触ってみたりと、工場に来て3年ぐらいが経つまでは、なかなかその違いを判断するのが難しかったですね。教わった通りにやっていたとしてもどこか違うような気がして、自分の手で触ってみた時の感覚や、口に入れた時の舌触りなどで、どのように違うかを見極める技術を徐々に習得していくしかなかったです。
ものづくりのやりがいを感じる新商品の企画
店舗から工場勤務に変わり、お客様の顔を見る機会はなくなりましたが、製造スケジュール通り安定したものをつくることのやりがいを感じますし、目標製造数を達成した時や、売上に貢献できた時には、接客とはまた違う仕事の楽しさを感じます。
今後の目標は新商品の開発ですね。基本的にサザエでは商品部が新商品の企画を考えていますが、工場製造の従業員でも、なにかいいアイデアがあれば採用してもらえます。こういった風通しのよさも、サザエのいいところだと思います。
仕事のスケジュール管理はそれぞれの従業員に任されているので、大まかな1ヶ月のスケジュールを決めてから、新商品の試作の時間に充てる日を決めています。いまも考えているアイデアはたくさんあるんですが、実際につくってみると想像していた味と違うことが多々あり、かたちにするまでには試行錯誤が必要だと思います。
2024年の夏に企画した塩黒豆大福は、久々のヒット商品と言われるほど、たくさんの方に買っていただきました。自分が提案したものが認められた時にはうれしかったですし、実際にそれが売れた時には、普段の工場の仕事とは違うやりがいを感じました。これからもものづくりの仕事の楽しさを感じながら、お客様に喜ばれるような商品を考えていきたいなと思います。